千葉セクション問題

2019年9月28日の Business Journal の掲載記事「『チバニアン』、申請者たちが行った“ねつ造”の証拠写真…地質学者同士の壮絶な潰し合い」

千葉セクション問題

転載元 11月10日閲覧のビジネスジャーナル掲載記事「『チバニアン』、申請者たちが行った“ねつ造”の証拠写真…地質学者同士の壮絶な潰し合い」https://biz-journal.jp/2019/09/post_120719.html

地球磁場逆転期の地層「チバニアン」(写真:山梨勝弘/アフロ)

先週、久々に「チバニアン」をめぐる動きが3つ見られた。チバニアンをめぐっては、7月27日付当サイト記事『「チバニアン」めぐり地質学者同士が泥沼論争…「データのねつ造、改ざん、盗掘」が争点』で詳しく報じたが、茨城大学の岡田誠教授、国立極地研究所の菅沼悠介准教授らを中心とする申請者グループと、同じ茨城大学の楡井久名誉教授を会長とする古関東深海盆ジオパーク推進協議会(以下、協議会と呼ぶ)が中心の申請の取り下げを求めるグループとの間で、泥沼の争いを繰り広げていた。そして今も壮絶な潰し合いが続いている。

 申請者側は新たな論文に加え、市原市の「自由な立ち入りと試料採取」を保証する条例制定を前提に、8月中旬に第3次申請を行い、9月16日に審議が終了し、そのまま投票で結果が出るものとみられたが、審査委員会から「論文が長すぎて理解できない」という、およそプロらしからぬ理由で、日本側に短い論文の提出を求めて審議の延期が決定した。これがひとつ。

 2つめは、協議会が9月18日、文部科学省で記者会見を行い、チバニアンと同様に、同時代のGSSP(国際標準模式層断面及び地点)を申請している都市であるイタリアのマテラ県およびモンタルバーノ・ヨニコ市との間で、日伊学術-文化協定が締結されたことを報告。これにより、どこがGSSPに認定されても、共に貴重な同じ地質年代の地層を持つ両組織同士は、研究だけでなく自然保護や観光までも含めた友好関係を築くことが決まった。当然、そこでは「科学倫理尊重」が前提となる。

 3つめは9月20日、千葉県市原市議会で「自由な立ち入りと試料採取」を保証する条例案が可決されたことだ。申請者側は短い論文に添えて、正式に条例が可決されたことで、「自由な立ち入りと試料採取」が保証されたことをアピールする作戦。一方、協議会は、GSSP申請に至るまでの不正行為を学術的・科学倫理的にレビューし、世に問う戦法である。

 チバニアンをめぐる争いについては、前出記事に両者の言い分を均等かつ詳細にまとめたが、記事がいささか長すぎたこと、専門用語等がわかりづらかったこともあり、この機会にあらためて「写真」を中心に、何がどう問題なのかを解説したい。

データ“ねつ造”の経緯

※写真(1)

 こちらは、千葉セクションの露頭の写真である。

※写真(2)

 この写真の左半分には、写真(1)の人物の横に黄色い折れ線グラフと青い矢印、白と黒の棒グラフが合成されていることが分かる。

 この合成写真は「2015年の夏」に行われたINQUA(国際第四紀学連合)国際巡検(見学会)で外国の研究者向けに配られた英文の巡検案内書に掲載された。写真(2)の右側は、地磁気の逆転が色別杭で示された、同じく千葉セクションの露頭である。左側の小さな穴は巡検終了後に新たに試料を採取した跡だが、測定データはなぜか明らかにされていない。

 先の写真(2)の左側で何が問題なのかを説明する。それは、黄色い折れ線グラフと青い矢印、白と黒の棒グラフである。黄色い折れ線グラフのデータがすべて千葉セクションで得られたデータであれば、なんの問題もないのだが、上半分は1.7㎞南西に位置する柳川セクションで得られたデータだったのだ。そのことを見学者に伝えるべきだったが、説明を慣れない英語で行ったこともあり、伝え忘れてしまったという。その結果、資料写真と色別杭を見た見学者の多くは、すべて千葉セクションで得られたデータだと思い込んだ。地磁気が代わる「M-B境界」も青い矢印と白と黒の棒グラフで示されているが、これも柳川セクションで得られたデータなので、現地巡検とはいえ、研究行為における「ねつ造」と見なすべきだろう。

 以下は、この合成写真について触れた、巡検終了後の8月12日の菅沼氏のメールである。

「皆様、おはようございます、極地研の菅沼です。巡検案内書については、ご存じのように突貫工事で、現場情報を入れる余裕がなかったため、杭に関しては、とくに触れておりません。ただ、●●君【注:筆者にて伏字】とVGPを併せた合成写真はあります。これは誤解を助長しますね。やはり、INQUA準備に余裕がなく、皆さんでちゃんと確認が取れなかったのが、一番大きな問題だったかもしれません。うまく手配できず、大変申し訳ありませんでした」

不可解な「柱状図」

※写真(3)

 こちらは「千葉複合セクション全体図」である。グレーの柱状の図が並んでいるが、これは文字通り「柱状図」と呼ばれるものである。砂層や泥層、あるいは火山灰層等の鍵層の高さや層厚を図に示したもので、地層の堆積物を、別の場所の地層の堆積物と対比させている。柱状図の右側の白や黒い棒は、写真(2)にも登場した棒グラフ。白は逆磁極、黒は正磁極を示す。

「養老川」と書かれた柱状図の下方に緑の枠があるが、この部分がチバニアンとして現地をご覧になった方も多いであろう、写真(1)と(2)の千葉セクションである。基準となるのは白尾火山灰層(Byk-E)で、ここが0メートルの基点となる。「養老川」の柱状図は下がマイナス15メートル、上は40メートル強あるが、実際には写真(4)と(5)を見るとわかるように、崖は上に続いていないので、40メートル強もあるのはおかしい。

※写真(4)

※写真(5)

「ここでは、長い柱状図は書けません。緑線上辺とByk-A(ピンクの線)の間にはヤブと市道があり、調査不可能です。さらに、Byk-Aとその上の砂礫層間も、ヤブや堤防等で調査不可能です。つまり、大きな調査不可能区間があり、柱状図には空白が出ます。現場を見ていない外国の論文査読者は、こんな不完全な柱状図でもOKを出すことになりますが、これを見抜けず『論文に問題無し』としてIUGS(国際地質科学連合)へ報告した日本学術会議IUGS分科会、日本地質学会、SGEPSS(地球電磁気・地球惑星学会)等の目は節穴 なんでしょうか」(楡井氏)

※写真(6)

 この写真も、柱状図を比べたものだ。左から順に、2015年の菅沼論文の柱状図、2017年の岡田論文の柱状図、2018年の菅沼論文の柱状図である。いずれも注目してほしいのは、「Yoro River」と書かれた柱状図の長さだ。全部、長さが違っているのが分かる。2015年時点の柱状図は、どうして2017年の柱状図では約10mも長くなるのか、地質学の門外漢が見てもこれは奇妙だ。もしかして、地質学という学問では、柱状図は伸縮自在だとでも言うのか。ちゃんとした理由があるのなら、ここはぜひ「科学的」に説明してもらいたいものである。

転載元 11月10日閲覧のビジネスジャーナル掲載記事「『チバニアン』、申請者たちが行った“ねつ造”の証拠写真…地質学者同士の壮絶な潰し合い」https://biz-journal.jp/2019/09/post_120719.html

(文=兜森衛)Copyright © Business Journal All Rights Reserved.