千葉セクション問題

「チバニアン」千葉セクションにおける本協議会の関わりと借地権について

千葉セクション問題


2.新たに結成されたGSSP申請グループが千葉セクションの調査に参加してからの
  関わりについて (2013年~)

 楡井と同じ茨城大学の岡田教授が新たにグループ代表を務め、当初は楡井を中心とする本協議会もGSSP申請グループの調査・巡検準備に協力してきました。主な協力内容は、元々調査していた楡井と地元の方々との協力関係を活かして試料採取等のための土地利用について交渉し許可を頂く、また各国際学会の巡検に備えて草刈り等の現地整備を実施する等というものでした。
 2013年8月から9月にかけては養老川沿いの露頭(現在、3色の杭が打たれている場所)でGSSP申請グループによる試料採取が行われ、Byk-E火山灰層の下位約10mから上位0.45mにかけて概ね10cm毎に古地磁気測定用の試料が採取されました。

 ところが2014年の11月頃に、本協議会が会田(1997)の古地磁気測定結果に基づき露頭に表示した札表示の意味を説明する看板が、岡田教授他数名により撤去されたとの話が地域住民の方からありました。撤去を手伝った方からは「岡田教授が楡井から了承を得て撤去した」との話でしたが、楡井はその様な了承はしておらず、この出来事に初めて不可解な点を抱くようになりました。

 
 さらに、2013年9月以降の古地磁気測定試料はByk-E火山灰層の上0.45mまでしか採取されておりませんでしたが、2015年2月末には採取孔が増え、上方1.65mまで開けられていることが判明しました。

 看板撤去の経緯に疑念を抱きつつも、2015年7月末には国際第四紀学連合(INQUA)名古屋大会の開催が予定され、大会のポスト(後)巡検として千葉セクションの国際巡検も控えていたことから、同年春には巡検準備に向けた会議も開催され、この場で古地磁気試料採取孔に測定結果を色表示杭で示す事が合意されました。
(※なお、この合意について岡田教授は後に「杭表示をしない事で合意した」と主張
されており、本協議会とは正反対の説明をされております。この詳細は後述いたします。)

 先述のHead教授をはじめ、各国の地質学者がGSSP候補地の巡検に参加することから、本協議会も現地の見学路の整備や草刈り・地域住民の方々への説明とご協力のお願い等といった準備を進めました。準備の最中、楡井の要請に基づき6月22日には岡田教授から古地磁気データが『Byk-Eの上方50cmより上はダミーで孔をあけてあるので、柳川セクションの古地磁気データを使って地磁気極性の色を付ける様に』と言う内容の文章と共にメールで提供されました。
 ダミーのデータであると言う事でしたが現地の露頭に採取孔は空けられておりましたので、当日までには測定したデータが上がるだろうと考え、本協議会も6月26日に杭ではなくダミーとしてテープを用いて現地に仮の古地磁気表示をしました。
 下の写真は6月26日にテープを貼った際に撮影したものです。2022年現在は、テープの右隣に同色のベンチマークもあります。

 INQUA名古屋大会が近づいた7月23日には、暫定としてテープの色に倣って試料採取孔に
赤-黄-緑の色表示杭を打ち込みました。この写真を撮り、7月29日には楡井も岡田教授・菅沼准教授が居る名古屋会場に向かいました。しかし、岡田教授と電話連絡がつかなかったため、代わりに色表示に間違いがないかどうか菅沼准教授に写真をご確認頂きました。
 すると、菅沼准教授から一部の色表示の変更をご指示頂きました。
 この変更こそが「ダミー」ではなく現地で採取された真のデータであると考え、翌日30日に現地の杭の色表示を変更しました。

この様な準備を経て8月3日と4日に国際巡検が実施され、地元町会の皆様のご協力も数多くあり
議論と交流が大変盛り上がりました。


 しかし、巡検後の8月24日に国立極地研究所で行われた関係者会議の場で『巡検で用いた杭表示の上半分は現地で採取されたデータではなく、「ダミー」とした柳川セクションのデータを色の変更指示後も引き続き用いていた』事が発覚しました。また、2015年2月末頃に採取された0.45cm~1.65cmの古地磁気試料は測定しておらず、他の測定を優先して保管していたところ試料劣化のために測定をやめた事が、後に2019年7月のビジネスジャーナルにおける岡田教授の説明で判明しております。

 この杭表示の一件につきまして、ビジネスジャーナル記事において岡田教授は「2015年の2月2日の全体会議では、田淵の露頭で(杭を含む)表示をしない事で楡井氏を含めチーム内で合意していました。」と説明されております。
 しかし、本当に「杭表示をしない事」が合意されていたのであれば
① そもそも岡田教授は楡井に杭表示の為のデータを提供(6月22日)しなかったであろうし
② 菅沼准教授も楡井に杭の色変更を指示(7月29日)せず、杭を引き抜くことを指示した

であろうと考えられます。また、上記記事で岡田教授は『論文記述に従って打ち直してください』とも述べられており、杭表示についてはむしろ積極的であったと思われ、GSSP申請グループのビジネスジャーナルにおける『杭表示をしない事で合意』という説明と巡検当時の言動との間には矛盾が見られます。

 また、同誌の2019年9月28日記事では、巡検後の8月12日に菅沼准教授が楡井らに宛てて送付したメールの一部が掲載されておりますが、ここでも「杭表示をしない合意」については触れられておらず、本当に杭表示をしない事で合意していたのかどうか疑わしくなります。
(※上記9月28日記事は、GSSP申請グループの抗議により掲載を取り下げさせられているため
本協議会が編集部に許可を頂き、当ホームページで転載しております。記事はこちら
 加えて、巡検で海外の研究者に配布された案内書には、古地磁気グラフに柳川地区のデータも用いられていることが明記されておりません。

 そもそも本協議会は当初から「現地から南西に約1.7km離れた柳川セクションの古地磁気データを田淵の地層(千葉セクション)に貼り付けて現地のデータであるかの様に説明する事自体が研究不正であり、科学倫理上の問題である」と主張してきておりますが、この件につきまして2018年頃に開設されたGSSP申請グループのホームページ『チバニアンの解説(当該ページが削除されたため、保存版)』では以下の様に主張されております。

 まず、『現地見学会はGSSP審査と関係無し』と主張されておりますが、そもそもこの巡検はGSSP候補地の一連の現地見学会として前年のイタリア候補地における巡検とともに企画・開催されたものです。さらに、この巡検にはGSSP審査委員も数名参加されており、中でも2次審査委員長のHead教授はINQUA2015名古屋大会のプログラム(23,24ページ)において、名古屋大会後の行事として巡検が行われる事を紹介しております。
 GSSP審査の委員長がこの様に述べている以上、『現地見学会はGSSP審査と関係無し』という主張は通用しません。
 事実関係①の最後には『同時に降り積もった火山灰層を追跡して、同時期の地層の積み重なりを調べることは、地質学の基本であり、これを「捏造」とは呼びません』と締めくくられておりますが、これは火山灰層の「対比」と言うものであり、本協議会はこれを「捏造」とはそもそも言ってはおらず、GSSP申請グループが読者のミスリードを誘う事を目的として書かれたものと考えられます。
 GSSP申請グループは『本協議会が「対比」を「捏造」と言った』と主張するのであれば、その証拠を示すべきです。
(※但し、火山灰層は同時性を示しますが、上下の2枚の火山灰層の間にある泥層については同時性(堆積速度が等しいこと)を証明できるデータが無ければ同時とは言えず「不連続」の可能性が指摘されます。事実関係①では『近隣の同時期の地層で分析した公表済みのデータを提供』と書かれておりますが、田淵地区と柳川地区の双方で同時性を証明できるだけのデータが出ていないため、『同時期の地層』とは言えず「不連続がある」と見なされる可能性があります。GSSP1次審査においてこの点を指摘され、2次審査で回答しようとしたために無断採取(盗掘)行為におよんだ事が、後の岡田教授のビジネスジャーナルに対する説明からも伺えます。)
 

 また事実関係②では、現地のデータは『国際的な科学雑誌で公表(Okada et al,.(2017));EPS』とあり、『その分析データを使った杭交換を「推進協議会」代表者へ申し入れていますが、返事をいただけない状況です。』とされておりますが、この様な巡検時の問題点に対する証拠隠滅とも受け止められかねない行為は当然ながら認められるものではありません。巡検後に採取・測定した古地磁気データに基づく杭表示は、巡検後に空けた採取孔に打ち込まれるべきものです。また、巡検時のデータ(Suganuma et al.(2015))と巡検後のデータ(Okada et al.(2017))は古地磁気の測定手法が異なる事からも杭の交換は認められるものではありません。

(※ちなみにGSSP申請グループの主張に従い、現地の杭表示を全てOkada et al.(2017)のデータに
置き換えた場合、上部の緑色の杭(正磁極)が全て黄色の杭(極性遷移帯)に置き換わり、緑色の杭が無くなるので千葉セクションで逆磁極-極性遷移帯-正磁極まで一連の逆転現象が確認できなくなります。)

 この一件により、申請グループが巡検当時の杭表示を引き抜き不正行為の証拠隠滅に繋がる恐れがあったため、杭の保全措置と研究倫理の問題提起として地権者から土地をお借りし見学用の階段整備と問題点を説明するための看板設置を行い、後述する申請グループによる無断採取を契機に借地権を設定するまでに至ります。


 話は2015年に戻り、2015年のINQUA現地巡検ではこの様な問題があったものの、8月24日の会議では『再度現地で古地磁気試料を採取し測定し直す事』および『古地磁気担当者はこの杭表示の一件について国際学会においてきちんと問題点を説明し謝罪する事』が合意された事により、GSSP申請グループと本協議会の協力関係は継続しました。
 この後9月末には本協議会が地元の許可を頂き、GSSP申請グループの兵頭政幸名誉教授(神戸大学,当時は教授)により古地磁気試料の採取がなされました。また、岡田教授と菅沼准教授も極地研究所での合意に基づき、12月には許可を頂いた上で古地磁気・有孔虫等の試料採取を行っております。

 年が明けて2016年2月には、地元の方から「馳浩文部科学大臣(当時)が現地を視察に来られる」という情報がありました。
 GSSP申請グループからは視察に来られる日時等の情報提供はありませんでしたが、折角来られるという事もあり、本協議会と地元有志の方々とで露頭周辺の整備を実施いたしました。また、この際に2014年に撤去された看板もリニューアルいたしました。
 その後、3月5日に馳文部科学大臣が視察に来られたと地元の方から連絡があり、視察があった事を知りましたが、本協議会にも町会の方々にも事前に連絡・案内はありませんでした。
 同日の夜、NHKのニュースで視察の様子が報じられ、菅沼准教授が赤-黄-緑の杭表示の前で馳文部科学大臣に説明されている様子が放映されました。

 3月末には岡田教授・菅沼准教授から「追加で試料採取を行いたい」との連絡があり、楡井が試料採取地点について事前に交渉し地元の許可を頂きました。しかし、試料採取を行っている様子が3月28日のNHKのニュース番組で映し出され、この番組を見た地元の方から試料採取の仕方について楡井に苦情が寄せられ「大変怒っており、もう試料採取をさせることは出来ず、来ないで頂きたい」とのお叱りを頂きました。このことを岡田教授に伝え、現地調査が難しくなったことを伝えました。
 楡井が地元の方とのトラブルを憂慮し、町会を交えて試料採取について協議をしている最中、2016年9月には日本第四紀学会(JAQUA)が千葉大学で開催されました。GSSP申請グループはこの場で2015年8月の現地巡検における杭表示について「おわび」を述べたと9月20日の千葉日報で報じられましたが、この時に用いられた説明資料にも不可解な点があります(内容はこちら)。申請グループが説明に用いた資料では、Suganuma et al.(2015)の古地磁気データは-10mまで、と記載されておりますが、実際の論文を見ると、-6.55mまでしかデータがありません。この点につきましてGSSP申請グループは何も述べておらず、またGSSP2次審査委員長でありSuganuma et al.(2015)の共著者でもあるHead教授も何もコメントしておりません。
 日本第四紀学会の翌々月、11月には岡田教授から「市原市が試料採取に協力してくれる様になったので、今まで有難うございました」という趣旨のメールが楡井に送られてきました。このメール以降、GSSP申請グループが楡井に現地調査に関して地元との交渉を依頼することはありませんでした。

 この後、2017年6月7日にGSSP申請グループが1次審査の提案書を提出した事が報じられ、GSSP審査がスタートしましたが、本協議会は2015年8月に催された国際巡検における捏造杭表示の問題と、NHKのニュース番組に映し出された申請グループによる試料採取の問題から、申請グループとは一線を画し問題の告発を行うに至りました。

 2017年11月にはGSSP1次審査が通過したことが報じられましたが、この報道をきっかけに現地に見学客が殺到する様になります。
 しかし、所有者と本協議会が共同管理していた現地の杭表示がある場所(のちに借地権により「立入禁止になる」との誤った情報が報じられた場所)は斜面で滑りやすく怪我の恐れがあることから、当時は市原市が立入禁止にしておりました。

 本協議会は、見学者には2015年から問題となる杭表示を安全にご覧頂きつつ、一人一人に科学倫理的な問題点を考えて頂きたいとの理由から、2017年の暮れから斜面を安全に登れるように階段の整備を始めました。この階段は、利用者から「安全に露頭を間近に見られて良い」との好評も頂いております。なお、階段は露頭(崖)ではなく斜面の堆積物上に設置しているため、露頭は削っておりません。
 この後、2018年10月に当該土地も含めて天然記念物に指定されますが、天然記念物の根拠法である文化財保護法第4条2項には「文化財の所有者その他の関係者は、文化財が貴重な国民的財産であることを自覚し、これを公共のために大切に保存するとともに、できるだけこれを公開する等その文化的活用に努めなければならない。」とあります。結果論にはなりますが、階段の設置により市原市の立入禁止が解消され公開が促進されたことは、法の趣旨にも合致していると本協議会は考えております。

 この後、本協議会は2018年1月と4月に国際地質科学連合(IUGS)と下位の委員会へ2015年の現地巡検の問題を報告し、イタリアの巡検参加者等を経由してイタリア側にも科学倫理の問題点が報告されます。また、これまでの経緯について2018年7月10日には報道各社に宛てて現地露頭で記者会見も行っております。(会見の内容はこちら)
 問題点の報告の結果、審査が一時中断した事が当時多くのメディアで報じられましたが、この頃からGSSP申請グループは本協議会の問題の指摘に対して『妨害されている』と主張し、事あるごとに報道各社に『妨害』と喧伝する様になります。
 本協議会の指摘に対して、国際地質科学連合(IUGS)の日本委員会である日本学術会議 地球惑星科学委員会IUGS分科会が、GSSP申請グループの説明を受けて「科学的に問題はない」とするサポートレターをIUGSに提出したことが後押しとなり審査が再開されましたが、本協議会の問題提起がどの様に議論されたのかは不明(審査内容は非公開)なまま進められました。
 この地球惑星科学委員会IUGS分科会にはGSSP2次審査委員(SQS)を務めたメンバー、および最終審査委員(IUGS)を務めたメンバーが在籍されておりますが、本協議会は後の2019年4月に両教授を含めたIUGS分科会に懸念事項を文書で伝え、2020年1月11日には提案申請書に用いられた論文に関する研究不正(捏造・改ざん)の疑義も報告しました。しかし、いずれの文書も今日に至るまでIUGS分科会からは返事を頂けておりません。(送付した文書はこちら  

 また、上記IUGS分科会に続いて地球電磁気・地球惑星圏学会は2018年5月24日に、日本地質学会は7月1日に、それぞれ「提案申請に問題なし」とする声明を発表し、これに追随して大手メディアも「問題なし」とする報道が多くなされました。本協議会はこれら2学術団体にも文書を送付しておりますが、IUGS分科会と同様に返事を頂けておりません。(送付した文書はこちら    
 とりわけ、地球電磁気・地球惑星圏学会は「申請の根拠とされている論文の内容を吟味しました」と述べております。しかし、この後本協議会が論文を読んだところ、捏造・改ざんが疑われるデータの齟齬が複数論文の複数個所に見られましたが、この点について学会声明では触れられておりません。
 本協議会はこれら研究不正が疑われる点についても上記学会に報告しておりますが、学会からは何の返事も無いことから「論文の内容を吟味しました」という声明自体の真偽のほどが疑われ、そもそも論文の内容を吟味せずに声明を出されたものとも考えられます。

 日本学術会議地球惑星科学委員会IUGS分科会から返事を頂けない件につきましては、後の2020年に学術会議会長の梶田隆章氏に宛てて『IUGS分科会から返答を頂けていないので、返答を促す様に』お願いをした文書を送付しておりますが、残念な事に連絡を頂けておりません(文書はこちら)。

 いずれの学術団体も決して少なくない税金が投じられている団体ですが、学術的かつ研究倫理・研究公正に関わる問題の指摘・提起に対して議論を避けられてしまうのは学術界の利益と国民からの信用に適ったことではなく、大変残念な事です。