千葉セクション問題

「チバニアン」GSSP提案申請書に用いられた論文に関する研究不正の疑いについて

千葉セクション問題


2.古地磁気データ・グラフに関する研究不正の疑いについて

【ポイント】
・2017年論文の古地磁気グラフ(図6・図9)は、本来あるべき3試料分のデータが無い(論文要旨の同グラフには存在する)
・3試料が無い古地磁気グラフは3.5m分のデータが重複する様に見え、次の2018年論文では当該3.5m分の層序が削除される
・3.5m分の層序が削除されると、地磁気逆転年代はGSSP審査委員長(共同研究者)が提唱する773ka(77万3000年前)に近づく

 Suganuma et al.(2015)では、テレビ・新聞等でよく取り上げられる養老川沿いの露頭(千葉セクション:写真)の下部、および千葉セクションから約1.7km南西にある柳川セクション上部の古地磁気調査が行われました。また、Byk-E火山灰中のジルコン結晶の測定に基づき、Byk-Eの堆積した年代は772.7±7.2ka(77万2700年±7200年前)であると結論づけられました。
 続いてOkada et al.(2017)では、千葉セクション全体と養老-田淵セクション(※養老川に流れる枝沢沿いの崖。現地では駐車場から養老川に降りる手前に左側に見られる)下部の古地磁気調査が行われました。両論文の古地磁気測定手法はそれぞれ異なりますが、調査範囲をOkada et al.(2017) Fig.2 柱状図に表すと下図の様になります。
 

 Okada et al.(2017)では、古地磁気逆転境界はByk-E火山灰層とByk-A火山灰層の間、Byk-Eの1.10m上方とされ、逆転年代は771.7ka(77万1700年前)としております。
 また、Simon et al.(2019)では、養老-田淵セクションの上方へ向けて古地磁気調査範囲が拡張されるとともに、古地磁気強度の指標となるBe(ベリリウム)同位体比が調査されました。

2-1.Okada et al.(2017)論文に関する齟齬の内容

 2-1-1.古地磁気グラフの齟齬

 Okada et al.(2017)論文を読み進めると、論文中の古地磁気データ表(Additional file 1)から作図されたはずのアブストラクト(論文要旨)の古地磁気グラフと、本文中の古地磁気グラフFig.9との間に齟齬がある事が判りました。下図がその内容です。

 また、同論文のFig.6は横軸にByk-E火山灰層からの高さ(m)をとった古地磁気グラフですが、Fig.6も上図のFig.9と同じ様に3試料分のデータが削除されております。なお、論文中にこれら3試料を除外した理由は述べられておりません。
 一方、申請グループが学会講演等で用いた資料()に描かれている古地磁気グラフを見ると、Fig.6およびFig.9のグラフとは異なり、3試料が削除されずに用いられております。さらに、申請グループの後続論文であるSimon et al.(2019)Fig.2古地磁気グラフにおいても、これら3試料は削除されることなく用いられております。
 まとめると、論文や講演資料のうち、Okada et al.(2017)Fig.6とFig.9の古地磁気グラフのみ、3試料分のデータが削除されていることになります。

 これらの事実関係を鑑み、Okada et al.(2017)論文ページで公開されている古地磁気データ表(Additional file 1)から実際に古地磁気グラフを作図して比較検証を試みました。グラフは論文中の定義に従い、「MAD」という偏差を示すパラメータが15°以上のデータを除外し、作図しました。(※作図方法はこちらをご参照下さい)

 作図した結果が下図になります。
 本協議会が作図したVGP緯度グラフ(緑枠)を、Fig.6・Fig.9それぞれの古地磁気グラフ(赤枠)に並べ合わせ、比較検証を行いました。

 Fig.6、Fig.9いずれも3試料分のデータが削除されていることがわかります。
 また、Fig.6では地磁気の緯度(VGP Latitude)グラフの下に偏角(Declination)、伏角(Inclination)などのグラフが続きますが、これらのグラフも同様に3試料分のデータが削除されています。
 このことから、単なる作図のミスとは考えられず研究不正(改ざん)行為が疑われますが、この事実を確認した時点では、3試料分のデータが無くなる事により後続の論文およびGSSP審査に対してどの様な影響が及んだのかが、まだ判明しておりませんでした。

 2-1-2.Suganuma et al.(2018) 層序の変化

 これまでに述べた点を念頭に置き、次にOkada et al.(2017)の後続論文であるSuganuma et al.(2018)を読みました。すると、柱状図(火山灰や砂・泥などの地質構造を模式的に柱状に表現した図)がOkada et al.(2017)から一部変更され、層序が削除・短縮されていることが読み取れました。
 両論文の層序の違いを下図に示します。

 Suganuma et al.(2018)では、養老-田淵セクションの「TB2-62(高さ6.2m)」から「TB2-96(高さ9.6m)」まで3.5m分の古地磁気データが削除されており、それに伴い柱状図(層序)も3.5m分短縮されております。
 また、Suganuma et al.(2018)以降に申請グループが発表した論文は、全てSuganuma et al.(2018)と同じ短縮された柱状図が用いられております。このことから、非公開のGSSP提案申請書においても短縮された柱状図が用いられたのではないか、と考えられます。

 Suganuma et al.(2018)における3.5m分の古地磁気データの削除および層序の短縮につきまして、申請グループは「チバニアンの解説(外部リンク)・(2024.1月追記:元のページが閲覧できないため、保存版)」ホームページにおいて、以下の様に『修正した』と説明しております。

 申請グループは「Yoro-Tabuchi柱状図に3.5m分の重複区間があることに気づいたため」と述べておりますが、上記説明文の内容をOkada et al.(2017)の柱状図に反映させると下図の様になります。

 また、申請グループが「重複区間」とする上図の青色・赤色の範囲をOkada et al.(2017) Fig.6の古地磁気グラフに投影すると、下図の様になります。
 3試料分のデータが削除されたOkada et al.(2017)の古地磁気グラフ(赤色枠のグラフ)を見れば、確かに青色・赤色の範囲を比べるとグラフの波形が似ている様に見えます。ところが、本協議会が3試料を正しく用いて作図した緑色枠のグラフを重ねて比較すると、似ているとは言い難いグラフの波形になります。

 加えて、申請グループは「チバニアンの解説」において『風岡氏作成の柱状図では同一の火山灰を別の火山灰と誤認(注:風岡氏はOkada et al.(2017)共著者の一人)』と説明していますが、当該テフラ(Byk-A火山灰とKOSS-2スコリア)は、近傍の露頭を見る限り別々の独立したテフラ(火山噴出物)として存在していることが確認できます。

 事実といたしまして、論文に記されている小草畑セクションの露頭を見ると、Byk-A火山灰とKOSS-2スコリアは全く別の層として明瞭に識別できます(下の写真)。

 また、柳川セクションで当該KOSS-2スコリアが分布すると考えられる層準は、GSSP公式論文であるSuganuma et al.(2021)においても調査されておらず柱状図の記載がありません(下図)。

 さらに、申請グループメンバーの中里裕臣氏(農業・食品産業技術総合研究機構)他が、日本地球惑星科学連合2018年大会(外部リンク)において千葉セクションを含む国本層のテフラ層序について発表されており、Byk-AとKOSS-2に触れております。
 しかし「チバニアンの解説」ホームページの記述とは異なり、Byk-AとKOSS-2が『同一の火山灰』であるとは述べておらず、申請グループ内の見解においても矛盾が見られます。

【余談1】
 申請グループの「チバニアンの解説(外部リンク)・(2024.1月追記:元のページが閲覧できないため、保存版)」ホームページに図1として掲載されているOkada et al.(2017)の柱状図と、実際のOkada et al.(2017)論文中の Fig.2 柱状図は、本来同じものであるはずですが、「チバニアンの解説」の柱状図は各テフラの高さが下の図中に示した表の様に書き換えられております。
 「チバニアンの解説」図1の柱状図は、Okada et al.(2017) Fig.2の養老川・養老-田淵の柱状図をByk-A火山灰からKu2火山灰の範囲にかけて3.5m分圧縮した様に書き換えられております。
 厳密には、「チバニアンの解説」図1にも改ざん行為が疑われますが、現在この図が示されたページはトップページからのリンクが削除されております。
(2024年1月追記:2024年1月には「チバニアンの解説」ホームページ自体が削除されております)

 また、「チバニアンの解説」図1の「Suganuma et al.(2018) QSR(※QSRは学術誌名の略称)」柱状図の説明には『「養老川ルートの柱状図」で見つかった重複部分を修正し~』と書かれておりますが、別の箇所の説明文を読むと『Yoro-Tabuchi柱状図に3.5m分の重複区間があることに気づいたため~』と書かれており、養老川ルートなのか、養老-田淵ルートなのか、ホームページ内においても矛盾が生じております。
 実際には、申請グループが「重複している」と主張する3.5m区間中のByk-A火山灰層は、千葉セクションを含む養老川ルートでは露頭として見られないため(写真参照)、養老-田淵ルートが正しいものと考えられます。

【余談2】
 チバニアンの解説では「Yoro-Tabuchi柱状図に3.5mの重複区間があり~(以下略)」と書かれておりますが、Okada et al.(2017)柱状図とSuganuma et al.(2018)柱状図を比較すると、養老-田淵セクションだけではなく、養老川セクションにおいても3.5m柱状図が短縮されております。養老川セクションでは、申請グループが「重複」の原因としているKOSS-2スコリアは2022年の時点で露頭としては確認できないため、養老川セクションの柱状図には記載がありません。
 しかし、Suganuma et al.(2018)では養老川セクションの柱状図も3.5mの短縮がなされており、申請グループによるホームページにおける説明と実際の論文との間には、もう一つの矛盾が生じております。

上図は矛盾の内容になります。

 申請グループは、「チバニアンの解説」において『風岡氏作成の柱状図では同一の火山灰を別の火山灰と誤認』と説明しております。しかし、通常、共著者が本当に『層序を間違えた』のであるならば、当事者双方の露頭スケッチや柱状図、ルートマップ等を現地露頭で照会・確認します。
 そして間違いが確認されれば、合意のもとOkada et al.(2017)の層序(柱状図)を訂正するのが本来の地質学的な研究の在り方です。
 ところが筆頭著者である岡田教授は、風岡氏と共に現地露頭を確認しておりません。

 当事者同士で現地露頭を観察・記載内容を確認する事無く、論文中の古地磁気グラフ及びテフラ層序が3.5m分重複しているかの様に見える不適切なグラフの作図を行い、一方的に「層序の誤認」と結論付けるのは、研究分野を問わず問題ある行為ではないかと考えられます。

2-2.研究不正(改ざん)の疑い

 2-2-1.3試料中2試料分の古地磁気データ削除について

 これまで述べました通り、3試料分の古地磁気データが削除されているOkada et al.(2017)Fig.6を見れば、一見、青色と赤色で加筆した各3.5mの範囲が重複しており、Byk-A火山灰とKOSS-2スコリアが同一であるかの様にも見えます()。しかし、論文中で削除された3試料のうち、2試料は青い範囲の中にあります。
 そしてこの2試料が存在すると、グラフ中の青-赤の範囲は重複しているとは言い難い波形となり、露頭観察のほかグラフ上においてもByk-A火山灰とKOSS-2スコリアは各々独立した地層として存在すると考えられます。
 このことから「Okada et al.(2017)論文中の古地磁気グラフにおいて3試料分のデータが削除されたのは、後のSuganuma et al.(2018)とGSSP提案申請書において、『重複している』として古地磁気データを3.5m分削除し、層序を短縮させる事が目的だったのではないか?」という研究不正(改ざん)の疑いが浮上します。

 2-2-2.3試料中 残り1試料分の古地磁気データ削除について

 一方、削除された3試料中残りの1試料は青-赤色が示す各3.5m範囲内にはありませんが、この試料の古地磁気データは緯度(VGP latitude)と偏角(Declination)の関係が他のデータとは大きく異なります。
 先述の「チバニアンの解説」ホームページの記述を見ると「Okada et al.(2017)による測定データ(帯磁率・酸素同位体)に不連続な変化パターンを確認した.これは近傍で採取された掘削試料の古地磁気データ(Hyodo et al.,2016)には見られない.」とも書かれておりますので
①)学会講演における岡田教授の『3試料分のデータを削除せず用いた』古地磁気グラフと
②)Hyodo et al.(2016)の古地磁気グラフ
を、並べて比較しました。その結果が下図になります。

 偏角とVGP緯度のグラフをそれぞれ並べて比較すると、Hyodo et al.(2016)の古地磁気グラフは概ね左右対称の傾向を示します。ところがOkada et al.(2017)Fig.6・Fig.9で削除された残り1試料の古地磁気データは左右対称の傾向から大きくかけ離れています。
 これに関連して、申請グループは「チバニアンの解説」(該当ページが削除されたため、保存版)において、以下の様に説明しております。
 「千葉セクションの近傍で掘削されたボーリング試料からも同様の結果が別の研究グループより報告されている(Hyodo et al.(2016))。」と書かれております。
 申請グループが自らこの様に述べている事からも、Okada et al.(2017)Fig.6とFig.9において古地磁気データを削除したもう一つの理由は、先行研究であるHyodo et al.(2016)の古地磁気データに傾向を合わせようとしたためではないか、とも考えられます。

 以上より、削除された3試料中1試料につきましては「Okada et al.(2017)の古地磁気データを、千葉セクション近傍で得られたHyodo et al.(2016)古地磁気データの傾向に合わせるために、削除したのではないか?」という、研究不正(改ざん)の疑いも浮上します。

2-3.GSSP提案と審査に対する影響(研究不正を疑う根拠)

・Okada et al.(2017)では、古地磁気グラフ中の3試料分のデータが理由なく削除されました。
・このことにより、グラフ上3.5m分の重複がある様に見え、Suganuma et al.(2018)では
 3.5m分の古地磁気データと層序が削除されました。
・これらの出来事が、GSSP審査にどの様な影響を及ぼすのでしょうか?


 以下、GSSP審査の過程で生じたであろう影響につきまして、本協議会の見解を説明いたします。

 2-3-1.Channell et al.(2010)との整合性

 冒頭にも述べました通り、千葉セクションにおける古地磁気の逆転現象そのものは、会田ら(1997)により既に確認され報告されてきました。一方、国際層序委員会(ICS)の年代表(外部リンク)を見ると、各地質時代の境界には年代が割り当てられております。
 GSSP審査においても重要な要素の一つに、時代境界(ここでは古地磁気逆転境界)の年代決定があると考えられます。

 Okada et al.(2017) 論文を読むと、千葉複合セクションにおける古地磁気逆転境界(極性遷移帯の中心に当たる年代)は、771.7 ka(77万1700年前)とされています。また、地磁気逆転に要した極性遷移帯の期間を2.8 kyr(2800年)としており、これらが『Channell et al.(2010)が示す北大西洋の深海ボーリングによる古地磁気データと整合的である』と、論文中において結論付けられております。

 そこで今度は比較対象としているChannell et al.(2010)を読みました。
 すると、Okada et al.(2017)とは極性遷移帯の定義が異なる事が分かりました。

 Channell et al.(2010)本文中の「3. Age and Duration of the M-B Boundary in Marine Sediments」によれば、極性遷移帯(M-B directional transition)についてはカッコ書きで「the time for which the VGP latitudes are below the range associated with “normal” secular variation」と定義されており、古地磁気の緯度が正磁極期間中の変動範囲よりも下回る(概ね45°を下回る)期間であることが示されております(“normal"とは、現在の正磁極の事を指します)。

 一方、Okada et al.(2017)では、極性遷移帯は0.25m~1.95mの範囲とされておりますが、なぜこの範囲と定義したのか記述がありません。

 Channell et al.(2010)Table 1に示されている極性遷移帯の期間を同論文の各古地磁気グラフに反映させると下図の様になります(※Table 1における各地点の極性遷移帯は"Onset Age"と"End Age"間の期間になります)
 下図に示した各グラフ中の赤い折れ線が古地磁気の緯度を示します。
(※ 各グラフの上半分は酸素同位体比のグラフであり、古地磁気のグラフではないため、便宜上、灰色の網掛けを加筆しております。)



 Channell et al.(2010)では、地磁気の緯度が概ね45°以上で安定している期間をブリュンヌ正磁極期としており、45°を下回る不安定な期間を極性遷移帯(上図の黄色い網掛け)と定義している事がグラフからも読み取れます。このほか、Okada et al.(2017)で引用されているValet et al.(2014)では、反転角(Reverse angle)が30°を下回る期間と定義されております。

 一方、Okada et al.(2017)の極性遷移帯はどうでしょうか?

 上図のChannell et al.(2010)と同様に、Okada et al.(2017)Fig.9に論文で結論付けられた極性遷移帯の期間を黄色い網掛けで加筆すると下図の様になります。

 Okada et al.(2017)ではChannell et al.(2010)とは異なり、ブリュンヌ正磁極期の初期に数回地磁気が逆磁極側へ遷移しています。これは、Channell et al.(2010)の定義に照らし合わせれば極性遷移帯と見なされる期間です。
 仮にChannell et al.(2010)の定義に合わせてOkada et al.(2017)の極性遷移帯を再定義すると下図の様になります。


 

 Channell et al.(2010)の極性遷移帯の定義に基づきOkada et al.(2017)の極性遷移帯を再定義すると、上図が示す様に松山-ブリュンヌ境界の年代も極性遷移帯の期間もChannell et al.(2010)で示された境界年代・極性遷移帯の期間から乖離してしまいます。
 特に地磁気逆転年代は約769kaとなり、Channell et al.(2010)と約4000年もの乖離が生じます。
 この乖離を少しでも解消することを目的として
1)Okada et al.(2017)では古地磁気のデータがグラフ上3.5m分重複している様に見せるために
  不都合な2試料の古地磁気データを削除し(改ざんの疑い)
2)Suganuma et al.(2018)では上記1)を根拠に3.5m分のデータと層序(柱状図)が削除された
ことが疑われます。

 しかし、単に3.5m分の層序を削除しただけでは、Channell et al.(2010)の地磁気逆転年代とは一致しないので、Okada et al.(2017)からSuganuma et al.(2018)にかけて各試料採取箇所の年代(堆積速度)も変わります。

 千葉複合セクションにおいて、各層準(Byk-E火山灰層からの地層の高さ)の年代は
⒈ Suganuma et al.(2015)で測定されたByk-E火山灰層の年代(772.7±7.2ka)
⒉ 酸素同位体層序に基づく、既存の論文(Elderfield et al.(2012))と酸素同位体比データとの対比

の2つの要素により決定されますが、Okada et al.(2017)とSuganuma et al.(2018)は同じSuganuma et al.(2015)の酸素同位体比データを用いているにも関わらず、「⒉ 酸素同位体層序」の対比の仕方が若干異なります。下図は両論文のグラフを比較し、違いを示したものです。

 3.5m分の古地磁気データを削除し、各層準の年代(堆積速度)を変更することにより、古地磁気の逆転年代は
Okada et al.(2017)の771.7ka(77万1700年前) から
Suganuma et al.(2018)では772.9ka(77万2900年前) に変わり
Channell et al.(2010)の773.1ka(77万3100年前) と極めて近い値に変わります。

千葉セクションの古地磁気逆転年代が、Okada et al.(2017)の771.7kaからSuganuma et al.(2018)では772.9kaに変わり、非公開の千葉セクションGSSP提案申請書に用いられたと考えられますが、ここで「なぜ、古地磁気逆転年代をChannell et al.(2010)の773.1ka(77万3100年前)に近づけることが、GSSP審査において有利にはたらくのか?
という疑問が浮かび上がると思いますので、次の節で説明いたします。

 2-3-2.Channell et al.(2010)の古地磁気逆転年代と合わせることによる影響

 GSSP2次審査を実施した第四紀層序小委員会(SQS)(外部リンク)の当時の審査委員長であるMartin J.Head教授(カナダ,ブロック大学)と、3次審査を実施した国際層序委員会(ICS)(外部リンク)の当時の事務総長であるPhilip L.Gibbard教授(英国,ケンブリッジ大学)により、2015年にHead and Gibbard(2015)が発表されました(Head教授は申請グループの共同研究者でもあり、Suganuma et al.(2015,2018,2021)の共著者です。また、Okada et al.(2017)においても論文執筆にアドバイスをしたとして謝辞に名前が掲載されております)

 このHead and Gibbard(2015)を読むと、Channell et al.(2010)を引用しており、松山-ブリュンヌ境界に関する各国の論文データをまとめていることがTable1に示されております。また、松山-ブリュンヌ境界をChannell et al.(2010)とほぼ等しい773ka(77万3000年前)と考えている事も読み取れます。
 なお、「Okada et al.(2017)の極性遷移帯をChannell et al.(2010)の定義に合わせると、M-B境界は約769kaとなる)」と、前に述べましたが、下表と比較すると769kaが他の地域に比べて大きくかけ離れた値である事が分かります。

 Head and Gibbard(2015)発表後の2019年に国際層序委員会の年代表が変わります。
 国際層序委員会(ICS)のホームページ(外部リンク)に掲載されている地質年代チャートを見ると、2018年8月時点では松山-ブリュンヌ境界(チャート上の「Middle」と「Calabrian」の境界)は0.781Ma(78万1000年前)とされていましたが、2019年5月時点の同チャートを見ると0.773Ma(77万3000年前)に変更されています。
(※2019年は、まだ『チバニアン』が決定しておりませんので、年代チャートには「Middle」と表記されております)。
 これはHead and Gibbard(2015)を受けての変更と考えられますが、申請グループが千葉セクションの古地磁気逆転境界の年代を773ka(77万3000年前)に近づけた理由もここにあると考えられます。

 また、Okada et al.(2017)は2016年9月に論文投稿され、2017年3月に論文受理されておりますが、受理前の2017年1月には岡田教授と2次審査委員長のHead教授、そしてHead教授の研究室生であったEseroghene Balota氏の3名により学会論文が出されております。
 Okada et al.(2017)では千葉セクションの古地磁気逆転の年代は771.7kaとされておりますが、この学会論文のタイトル(外部リンク)を見ると、Okada et al.(2017)論文受理前の2017年1月の時点であるにも関わらず、773kaとされております。
 この事実からも、千葉セクションの古地磁気逆転境界年代をあらかじめ773ka(77万3000年前)に近づけようとしたのではないかと考えられます。

 まとめると、以下の通りになります。
・Okada et al.(2017)Fig.6・Fig.9では、3試料分の古地磁気データが削除され(改ざん)、グラフ上3.5m分の重複(Byk-A火山灰とKOSS-2スコリアが同一)している様に見える。
・Suganuma et al.(2018)およびGSSP提案申請書では当該層序3.5mが短縮(改ざん)された。
・上記層序の短縮(改ざん)は、千葉セクションの古地磁気逆転境界の年代を、国際層序委員会(ICS)の年代チャートに採用されるHead and Gibbard(2015)の77万3000年前に近づけることを目的として行われたことが疑われる。

 なお、この古地磁気グラフと層序の改ざんの疑いにつきまして、被告発機関である茨城大学は匿名の予備調査委員会報告書で「恐らくは作図上のミスであり、結論には影響しないため研究不正ではない」と述べ、本調査の実施を拒否しております。
 また、同様に被告発機関である国立極地研究所(情報・システム研究機構)も、匿名の予備調査委員会報告書で「学術誌に掲載された論文に対する疑義は当方で調査すべき事案ではない」として、本調査を拒否しております(詳しくはこちら)。

 しかし、本協議会はこれまで述べました様に古地磁気データ表から実際にグラフを作図しミスが起こり得るか検証、あるいは前後の論文と比較、さらには現地の地質調査により申請グループが『重複している』と主張する火山灰-スコリア等のテフラ分布を確認する等の作業を行い検証を実施しております。
 一方、茨城大学と極地研究所の予備調査委員会(匿名)の報告書には、どの様な検証を実施したのか記述がありません。
 茨城大学の予備調査報告書には「恐らくは~」と書かれている通り、根拠に基づかず、推測による判断であり、検証を行わなくてもよい学内の予備調査の段階で不正の告発を隠蔽しようとした可能性も疑われ、公正な調査が求められるところです。

 古地磁気に関する研究不正の疑いについて、Okada et al.(2017)とSuganuma et al.(2018)の酸素同位体比グラフを比較していたところ、酸素同位体比データについても研究不正を疑う点が出てきました。これが2番目の「酸素同位体比データの捏造および改ざん」の疑いに繋がります。
 次のページでは、この酸素同位体比の捏造および改ざんの疑いについて説明いたします。

(コラム:千葉セクションとイタリア候補地のテフラ層序の比較

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